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冬眠穴調査 調査の影響を考えた回

若いメスグマNo.51に取り付けた発信器は出力が弱く、近づかないと電波を受信できません。
その日も尾根に登ったところ、ようやく弱い電波をとらえることができました。

カモシカの気分
岩場を伝い、電波の発信源に近づきます。

と、その時、対斜面でゴソゴソしている動物がいました。
登ってくる途中、カモシカの痕跡を見かけていたため、私は黒いカモシカかと思いました。
しかし、双眼鏡で見るとクマ、それも耳タグを付けたNo.51でした。

雪の上をゆっくり歩き、こちらをじっと見てから、尾根を越えていきました。

No.51足跡
私たちの気配を感じて穴から出てしまったのかもしれません。
山に分け入るという行為がクマに与えてしまった影響について、考えさせられました。

しかし、冬の間に穴を替えるクマがいることは、これまでにも確認されています。
No.51は捕獲時よりも明らかに大きくなっており、順調に成長しているようでした。

別の良い穴を見つけて、無事に春を迎えてほしいと思いました。

無事を祈る

  玉谷
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冬眠穴調査 やぶ漕ぎの回

メスグマNo.65の電波は、急斜面とササやぶが人間の侵入を阻んでいるような場所から飛んできていました。
一日目は冬眠穴まで近づけず、二日目に別のルートから挑戦しました。

凍った滝
凍った沢を登るか。

ササの海
ササやぶを突っ切るか。

残念ながら私は、岩や氷を登る技術を持ち合わせておらず、さらに極度の高所恐怖症であるため、初めからササやぶを進むという選択肢しかないのでした・・・。

歩き出してから4時間半。
ササやぶの中で冬眠穴を発見しました。

No.65冬眠穴
斜面に立つ大木の根とササの根を利用した穴で、軽井沢周辺では比較的よく見られるタイプのものでした。
穴の前のササが倒れています。

行けどもササ
帰り道はまたササやぶです。
もともと見通しが悪いとは言っても、日が落ちた後には叶いません。
まるで夜の海のようなササやぶを時速200mというスピードで文字通り「漕ぎ」、車に戻ったのは20:00でした。

この2日間のやぶ漕ぎで失ったり壊れたりしたもの。
水筒、ウェストポーチのジッパー、腕時計のバンド、体力、正気。
外れたもの。
クマ撃退スプレーの安全ピン。
暴発しなくて良かったです。

  玉谷

冬の一日 ~冬眠穴調査にて~

みなさま

こんにちは。この寒空の中、私たちが行っている調査の一つをお知らせします。

それは「クマの冬眠穴調査」。
クマ保護管理上重要な冬眠穴の環境や、子どもの出産状況などを調べています。

夏は別荘地や住居地にやってくる個体もおり、積極的にベアドッグや花火弾や大声を出して追い払うこともありますが、今は極力「そ~」っと忍び寄ります。

クマたちは完全に体温を落とし、まったく動けない状態で「冬眠」しているのではなく、少しだけ体温を落とし、木の根元や岩の間にできた穴などで、うずくまって「冬ごもり」しているだけなので。

この時期は、あまり雪が多くない軽井沢やその周辺地域では山の稜線まで上がるとこのようなシーンにも巡り会います。

DSCN9015_20100202185011.jpg

写真右手が日差しが当たらない北斜面、左側が南斜面。
稜線を境に数十センチの差で雪の有る無しが分かれます。

クマたちは人の接近を拒むような高標高や、急傾斜地にある穴にいることも少なくない上に、穴地形に入り込んだクマに取り付けられた発信器の電波は反射したり、入感が弱かったりと位置の特定が非常に難しいために、1つの冬眠穴にたどり着くまでに山の中を1日さまよい歩く事も少なくありません。

凍った地面も多いので、簡易アイゼンに命を預けて尾根を登ったり降りたり。

アイゼン

今日はNo.45(通称:シーサー/雌7歳)の冬眠穴の探索に向かいました。実は、私、1月12日にもこの個体の冬眠穴特定に挑戦したのですが、あまりの急峻な地形と、天候の急変、受信機トラブルで途中断念しておりました。

ということで今日はリベンジ。
昨夜降った雪で山中には積雪は20cmほど。
No.45の発信電波を頼りに歩くこと2時間。

穴の近くまで来たことを強い電波が教えてくれてます。
歩く音や受信音を極力抑えながら、何とか穴があるであろうエリアを絞りました。

双眼鏡でそのエリアをなめるように見ながら、(これまでの経験から)私の目にとまった場所がありました。

No.45 den 2

「あれだ!」と心の中で叫びました(上の写真の中央部の黒い穴)。
No.45の冬眠穴は人の接近を拒むような急斜面の木の根元できた空間にありました。

また1月下旬から2月上旬はクマの出産期の始まり。
「もしかしたら子グマが産まれているかも」と思い、冬眠穴から約30mほど離れた場所で、じっと待つこと20分。

目星をつけていた穴の中から「ンウィ~~ン、ンウィ~~ン」とか細い声が・・・。

No.45は仔グマを出産していました。
恐らくこの時期は200~250g(缶コーヒー1本ほど)ほどの大きさでしょう。

2時間歩いた疲れや、手がかじかむような寒さを忘れて、静かな森の中で子グマの甘えた温かな声にしばらく聞きいってました。

「こうやって森の奥の奥で命が始まり、つながっていくんだな。」
「いや~、本当に野生動物はたくましいな!!」

帰り道、疲れも忘れて「いや~、俺も一生懸命、今を生きよう、がんばろう」と、ぶつぶつつぶやきながら元気一杯な気持ちで下山してきました。

田中